トントントン。あのリズミカルな音はまさしく音楽そのもの。第九もジャズもその日に気分。
これもまた形を変えた露天風呂。雁の自由を時に羨ましく。雁も旅人か。
何もかも流してくれる風呂。目も鼻もそして口も眉毛も流しちゃった露天風呂。
明日、他家に嫁ぐ娘と記念の旅。話すことはいっぱいあって黙す旅。
来て嬉し帰って嬉しの孫の襲来。歓声消えておもちゃの舟がぷかりぷかり。
風呂は心も体もほぐしてくれる。さあ明日も、と新たな決意もここから。
今日も一日ご苦労さん。一日の疲れを流して父の唄。上がれば一合半のごほうびが。
言われた言葉を仕舞の風呂で反すうする。間違ってはいないが折れることも平和か。
事情があって今はもらい風呂。この逆境を月が励ましてくれる。
走り回った夜を昼にして。今こうして昼風呂の快さに勤めあげた自分にごほうびの風呂。
仲の良さに月も嫉妬したのか。満月を夫婦の息が割ってみせ。
頭を空っぽにできるお風呂の時間。時々悩んだ川柳が神の啓示のごとく折りてくる。
便利なものだ。名湯の香りは袋の中の「湯の本」をサラサラ。「草津よいとこ」でも唸ろう。
まさか名刺をくわえて風呂に入る人はいまいが裸でこその人間の真価。
満々の湯から残り湯の仕舞い風呂。家族の鼻歌を今日も黙って聞いている。
風呂場には音響効果があることを知っているのか知らぬのか。決まった時間の「森の石松」。
戦い終えて日が暮れて。名もなき男も風呂に浸かって明日こその充電。
しがらみも欲もそして雑念もこの白濁が全て包んでくれる。ひょっとして魂の色は白色。
風呂の水もそれを沸かす薪も人の手を借りねばならなかった時代。今はスイッチオンの「湧きました」。
この体温に近い湯の温度が解放感に浸らせてくれる。良い句ができる風呂の中。
風呂の中でゆっくりと一日を巻き戻す。報われぬ労がまた明日のバネに。
ガスや灯油と違う薪の熱源。まさかここも始めチョロチョロ中パッパではあるまい。
満月を壊さないように静かにそっと足のつま先から。人は誰しも詩人になれる。
とんがって生きた今日の一日を反省。いつもいつもこの繰り返し。いつになったら大人に。
空に月。火照った体に熱燗。ススキのかんざしの君もいる。誰かの歌に似て。
昔から菊は不老長寿の薬草。これを湯に浮かべて平穏なこれからを願う。
月の満ち欠けを暮らしの基準にしてきた名残りか。今夜は満月、海は大潮。
あのオリンピック開催は果たして正解だったのか。とんと聞こえぬ開催総括。
どうしてだろう。風呂でスイッチが入るのは。まして朝風呂。戦う準備は整えた。
まるでアルキメデス。湯舟が名案の手助けを。さすがに裸で走りだすこともないが。