東京で開ける母親の定期便。訛と一緒に泥付き野菜が転げ出る。
山の雪が溶けて始まる農日誌。がらがらと納屋の引き戸も春の音。
ローマへの道は一つではないけれど風に聞きたい窓開けて。
花が美しければ美しいほどいや増す悲しさ。桜は悲しみを食べて開くのか。
開発という名の橋が故郷の人情も訛も運んで行った。全国どこにでもその例は。
歓声の無い廃校に今年も開く桜。耳を澄ますと確かに子らの声が
冬耕は毎年の農の始まり。春告草と言われる梅の開花がゴーサイン。
ふっと手を伸ばせば届きそうな星の輝き。それならいっそこの窓を開け。
てっぺんの鷹には鷹の苦労が。しかしそのことを誰も見ようとはしない。
相手の立場に立って耳を傾ければ固い氷もやがて溶け。
文明は果たして人を幸せにしてくれるのだろうか。草生す廃村でふと。
歴史に学ばぬ人類の愚行。この地球上にはいつもどこかで戦火の煙。
温かいことばとやさしさに飢えた捨て犬。出されたにぎりめしにクーンと鼻。
春がこぶしを開かせる。さあ、外への一歩を踏み出そう。
胎内の温さを湯船の中で思い出すのか赤子の手。大人の責任は重い。
子はいつか親の死角で脱皮する。親が子に手を差し伸べるのは僅かな時間。
子育ての一つとして選んだ絵本の読み聞かせ。いつしかその声も子守唄。
あれから50年。紅顔の少年少女たちに昔日の面影少し。
石持て追われた野良猫もいつかきっと人間と心通わす時が。
生後百日のお食い初め。口に付いた粥一粒の際立つ白さ。
餌を待つ子燕にも順があるとは自然の厳しさ。餌にありつけたものが生き残る。
幸せはいつも身近に、という寓話。この足元にあることを誰も気づかぬ。
春財布の縁起は張る財布。転び出てもそのうちまた張る財布。
陽にやけた少年の白い歯と白いシャツ。思い出というものはいつもシンプル。
あの花の開花を勝鬨と表現したことに脱帽。勝鬨の叫びは夜明け前から。
人には一つの口と二つの耳。聞きましょう。時の首相ではないが。
あの開いた小さな手にはつかみきれない程の未来が。澄んだ瞳は青空映す。
まだあの人も戻ってこないこの村の、開いたままの冷蔵庫。横切る影は猪か
誰にでも秘密の一つや二つ。たとえ夫婦といえども侵してならぬものがある。
虐げられた犬が知った人の体温。言葉は無くても膝という名の陽だまりは。